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地獄のリサイタル

去年の夏、日本に一時帰国する直前に行った、クロアチア・ドゥブロブニクでのリサイタルは生涯忘れる事ない貴重な体験になった。


「アドリア海の真珠」と呼ばれるこの街は、旧ユーゴの観光都市で、その旧市街地は周囲を城壁に囲われ、悠久の時を越え、中世の面影を今も残し、訪れる人々は遠い昔にタイムスリップした錯覚にとらわれる。
 
ウィーンから小さな小さな飛行機に乗り換え飛ぶこと約2時間、飛行機はドゥブロブニク国際空港に降り立った。飛行機はアドリア海の上空を飛び、空からこの旧市街を一望すると、別世界がそこには広がっていた。

そういえば、この街は宮崎駿監督の映画「魔女の宅急便」の舞台のモデルにもなったそうだ。この映画を以前に見たことがあったので、空から見ると見覚えのある風景だった。

街はそれは美しく、観光客でいっぱいだった。

だが、暑すぎた。リサイタル当日の気温は37度まで上昇し、観光客もこの暑さのせいで日陰に避難し、暑さにやられたのか疲れ切った顔をしていた。

そんな中、僕の演奏会はアドリア海に面した由緒ある美術館で行われた。

クーラーもなく密閉した会場の中、よりによって燕尾服しか持参していなかった僕は、それを着て演奏しなければならなかった。それは、サウナの中で毛布をかぶってピアノを弾くのと同じことで、相当の精神力と体力を必要とする行為であった。

最初のハイドンのソナタまでは何とか意識がハッキリしていたのだが、前半最後の難曲スクリャービンのソナタ5番になると、今までかろうじてゆっくり流れ落ちていた汗が水しぶきのように飛び散り、今までの演奏会で恐らく文字通り、最高に手に汗握る演奏になった(笑)。
それでも鍵盤に汗が落ちると指が滑って大変なので、ずっと体を起し、背筋をピンと張って注意して演奏しなくてはいけなかった。

僕は全然汗かきではない。それでも必死で流れては落ちる汗と格闘しなければならなかった。

なんとか前半を終え、楽屋で落ちてあった雑誌でパタパタ扇いでいると、そこへコンサートの責任者がやってきて、

「貴方も暑いでしょうけど、聴いているほうも暑いです。このまま勿論聴きたいですが、後半は一曲カットしてくれませんか?」

という申し出に、僕もこれを承諾せずにはいられなく、止むを得ず最後に弾く予定だったラフマニノフのソナタ2番をカットした。

二曲になってしまった後半を弾き終え、意識が朦朧としているものの笑顔で拍手に応え、ふらふらになりながらも、このときほど強くクーラーのガンガン効いたホテルでシャワーを浴び、休みたいと思ったことはなかった。

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