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ドン・ジョバンニ

先日ベルリン国立歌劇場に、モーツァルトのオペラ「ドン・ジョバンニ」を観にいった。
ここベルリンには歌劇場が3つもあり、毎日どこかで何かしらの公演がある。しかも、入場料も日本では考えられないほど安く、学生席で12ユーロ(約1600円)という、なんともおいしい料金で気軽にオペラを楽しむ事が出来る。気軽にとは言っても、そこは“歌劇場”で紳士・淑女の集う社交場であるからジーンズ、Tシャツなんかでは少なくとも僕は行かない。よくそういう若い人たちを見かけるが、せめてきちんとアイロンの当たったシャツにズボンで観に来て欲しいと思う。
まあ、そんな“親父のたわごと”はさておき、肝心のオペラはどうだったのか?久しぶりに公演を聴いたわけだが、さすがはベルリン国立歌劇場ですね、と改めてそのレベルの高さを痛感し、素敵な時間を過ごさせてもらった。
一部の歌手陣への不満はさて置き、演出がとにかく判りやすくて、ストーリーがちゃんとダイレクトに伝わってきて、声楽主体のオペラを素直に愉しむことができた。
たまに才能のない演出家のエゴのせいで、実験的な斬新な演出により、肝心のオペラ本来の良さが全く失われてしまい、「今のその動きってどんな意味なんだろう?」とか「なんで、アリアをカットしちゃったの?」とか笑ってしまう演出も最近は多くなった。そんな演出家たちがどういう訳かチヤホヤされて、演出が良いも悪いも、ある種の“評判”を呼び、観客の興味を惹き、彼らはオペラから遠のいていく聴衆を再び劇場に引き戻す恰好の宣伝要員となっているのも事実で、そんな“えさ”を劇場側が“ないがしろ”にはできないという悲しい現実がある。
以前もベルリン・コーミシェオーパー歌劇場で、なんとも下品で悪趣味極まりない最低な演出のモーツァルトのオペラ「後宮からの逃走」を観たことがあった。せっかくの最高のオペラがこんな形で汚され、低俗なオペラ成り下がったことに憤りを感じざるを得なかったが、その日は舞台初日ではなかったのにもかかわらず、その下品で悪趣味な演出のうわさが広まったおかげで、多くの観客を動員することができた。それでも、30人くらいの聴衆は途中で嫌気がさして会場を去り、コンスタンツェのアリアの後ではブーイングが飛び交い(勿論、歌った歌手のせいではなく、この“演出”のせい)、「これはスキャンダルよ!!」「もうやめろ~~!!」「演出家のやろー出てきやがれ!!」などの野次が会場のあちらこちらからあがり、ほとんどオペラどころではなくなっていた。
このような事態になることを、きっとこの演出家は計算していたにちがいなく、劇場側にとっても計画通りであったわけだ。 新聞には大きく取り上げられるし、この演出についての一般討論会までベルリンのラジオ局で開かれてしまった。

彼らが世の中にはびこっている以上、歌手達の平安はおとずれることはないだろう。

最近の“はやり”


ここ数週間、夕暮れ時になると必ず聴き続けている音楽がある。
それはなにをかくそう(そんな大袈裟なことではないが)マーラーの「交響曲第5番」である。
第4楽章のアダージェットが特に有名なこの交響曲は、映画「ヴェニスに死す」でも使われ、最も有名・人気のある交響曲の仲間入りを果たした。
この曲は、もともと好きな曲ではあったが、なかなか落ち着いて聴いたことがなかった。なんといっても演奏時間が長いのがこの曲から遠のいてしまう最大の理由だった。
さて、我がdiaryに頻繁に登場する師匠のL先生宅は、僕の住んでいる所から、電車の待ち時間や徒歩を含めると、片道約1時間半もかかるベルリン郊外の閑静な住宅地に住んでいる。この往復3時間はとてつもなく長い時間で、どうやってこの時間を過ごそうか、毎回僕を悩ませている。
数週間前、そう、あれはめずらしく夕方4時くらいに先生のお宅にてレッスンがあったときのことだった。いつものように、自宅で道中に聴くCDを選んでいると、たまたまこのマーラーの「交響曲第5番」のCDを目にしたので、条件反射的に手にし、カバンに入れ、それから先生宅へ向かった。
レッスンが終わり、僕は迫りくるリサイタルの不安と緊張とで心身ともに疲れて果てていた。
再び電車に乗り、持ってきたこのCDを聴き始めた。その日はとても天気がよく、いつもはレッスンが夜の10時過ぎに終わるせいで、車窓からの景色は真っ暗でほとんど何も見えないのだが、この日は「こんな景色だったっけ・・?」と違うところを電車が走っているのではないかと錯覚を覚えるほどの“別世界”で、移り行く春の景色をぼんやりと眺めながらCDを聴いていた。
いつもは、ピアノを弾いている職業柄、ピアノ曲を聴くことが多い。しかし、どうも電車の中でピアノ「独奏曲」を聴くと、電車の“ガタンゴトン”の騒音のせいで、ディナーミクがppなんかになってしまうと、その騒音にかき消され、無音状態になり、何も聴きとれなくなってしまう。だから、分厚い音量のある曲で、例えばブラームスや、ラフマニノフなどの「ピアノ協奏曲」を聴く事が必然的に多くなり、そればかり聴いてしまうのである。
その日、僕が聴いていたのはブラームスやラフマニノフの「ピアノ協奏曲」ではなく、他ならぬマーラーの「交響曲第5番」であった。

電車から降り、家路に続く並木道を歩いていると、やさしくささやくように、この第4楽章の「アダージェット」が始まった。新緑の目にも鮮やかな木々の下をくぐりぬけ、ゆれる葉々の間からこぼれる夕陽の光を顔にうけ、さわやかな夕暮れの風を頬で感じながら、歩くスピードを落とし、リサイタルのことなど忘れ、しばらく僕はこの音楽と共に夕暮れの空気のなかにいた。

写真 ♣ベルリン郊外の湖にて
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